医療業界では、人口減少や医療費削減、病院の統廃合といった様々な変化を背景に、商業的であることから敬遠されがちな「マーケティング」が、昨今、注目されるようになってきています。本格的にマーケティングに取り組む部署を立ち上げる病院や医師がリーダーとなってマーケティングやブランディングの活動に取り組む病院も存在し、組織改革へとつながるきっかけにもなっています。

医療マーケティングとは

ご存知のように「マーケティング」とは英語で「marketing」と表現します。
「marketing」は、「市場」を意味する「market」が語源です。 売買取引が行われる市場において、価値のある商品を消費者に届けるための活動「marketing」です。また「消費者にとって価値のある商品やサービス」の開発も「マーケティング」の領域に入ります。

では、マーケティングの前に医療を追加し、医療マーケティングにするとどうなるのか?
病院であれば、「市場」は「地域」であり、消費者は「地域の生活者や患者」になります。
病院の特徴や強みを地域の生活者や患者に広く届け、最適な医療を選んでもらう活動と言えます。この活動を続けることで、地域の生活者や患者に信頼と愛着を生み、病院を利用し続けてもらうことへとつながります。

医療マーケティング活動を支える患者視点

では、医療マーケティング活動とは、どのようなことなのでしょうか?まず、医療や病院の質を上げるために患者のニーズを理解し、それに応えるために何ができるかといことが起点になります。ウェブサイトを中心とした場合、以下のようなことがポイントになってきます。

1.患者中心の視点
患者が求める情報をわかりやすく提供し、安心感を与える。
医療マーケティング活動を行う上で、最も重要なポイントとなり起点になる。

2.患者さんとの信頼関係を構築
医師紹介、症例実績、患者の声、認定資格などを積極的に発信。
特に医師の紹介や症例を動画コンテツにすると効果がある。

3.分かりやすい情報提供と導線設計
必要な情報にすぐアクセスできるシンプルなサイト構造と予約導線の確保。

4.オンライン予約・問い合わせシステム
オンライン予約や問い合わせフォームを導入し、アクセスしやすくする。

5.SEO対策
診療科や症状名で検索されやすいページを作り、地域の患者が発見しやすくする。

6.スマートフォン対応
スマホを中心にパソコンやタブレットからでも快適に閲覧できる。
レスポンシブデザインの採用。

7.継続的な情報発信とフィードバック活用
ブログやSNSで医療やヘルスケアなどの有益な情報を発信し、患者の声を反映して改善を続ける。

上記のポイントを必ずしも全てクリアする必要はありませんが、医療マーケティングの手法を取り入れ、分析することで、病院経営における必要な情報や改善点など新たな視点が生まれる可能性があります。

地域医療と先端医療を軸にマーケティングにかける病院

それでは、地域密着型の信頼と先端医療の提供を軸にして、医療マーケティングに力を入れる病院のウェブサイトを考察していきます。

一つ目は、小倉記念病院です。病院のウェブサイトやデジタルツールを活用して、患者が便利に利用できる環境を整え、安心と満足度を高める活動を行っています。ウェブサイトは、地域の人々が主役ということから、トップページのキービジュアルが、地域の生活者の写真集となっており、他の病院のウェブサイトでは見られない振り切ったデザインコンセプトとなっています。また、患者さんが欲しい情報である医師の情報は、医師それぞれの紹介動画があり、親近感や安心感を提供します。医療マーケティングのポイントを押さえており、何より医療にかける思いが伝わるウェブサイトです。

出典:小倉記念病院 http://www.kokurakinen.or.jp/

二つ目は、名戸ヶ谷病院です。脳神経外科を中心に高度な専門医療を提供し、地域住民に密着した医療を提供する病院です。全スタッフがプロ意識を持って患者に接し、最新設備を活用した治療や広報活動にも力を入れており、「柏で世界最高水準の医療」をビジョンに地域から高い信頼を獲得するために活動を行っています。その中でも脳神経外科は、独自のウェブサイトを持ち、患者中心の医療を強調し、専門的な治療内容や最新設備をわかりやすく紹介しています。また、チーム医療の取り組みやセカンドオピニオンの案内など、患者の信頼を高める情報を充実させています。これにより、地域医療機関としての信頼性と先進性を効果的に伝えるウェブサイトです。

出典:名戸ヶ谷病院 脳神経外科 https://www.nadogaya-neurosurgery.com/

出典:名戸ヶ谷病院 https://www.nadogaya.com/

医療と日常生活を結びつけるWelpaのマーケティング

最後に商業的なマーケティングと医療的なマーケティングをミックスさせたPARCOが運営するWelpa(ウェルパ)を紹介します。Welpa(ウェルパ)は、医療モールとして健康とウェルネスをテーマにした新しい形態の施設で、医療とファッションを中心とした商業施設が一体化したコンセプトが特徴です。これは、一般の医療施設と異なり、ショッピングや生活サービスの場に位置することで、気軽に訪れることができる点がマーケティングの強みになっています。ウェブサイトは、ターゲットの中心となる女性に向けたメッセージ性の高いデザインでファッション、ヘルスケア、医療がボーダレスとなっいく医療モールの新たなスタイルを提案しています。


出典:パルコが提案する医療ウェルネスモール| Welpa   https://wellness.parco.jp/welpa/

まとめ:医療マーケティングは患者や生活者と病院をつなぐ架け橋

病院がマーケティングを意識するのは、単に「患者数を増やすため」だけではなく、患者に必要な情報を適切に届け、信頼感と安心感を提供するためです。
また、地域社会とのつながりを深め、医療の質と患者体験の向上に役立ちます。適切な情報発信を行うことで、患者が迷わずに安心して医療を受けられる環境を提供することが、結果的に病院の経営安定にもつながります。