ご存知のように、一昔前では、新聞や雑誌、テレビといった「特定の媒体」から情報を得る時代がありました。新たなインターネットメディアの登場によって、情報のあり方は大きく変わり、その中でも雑誌はかつての情報源としてのニーズを一部奪われてきました。
しかし、これは雑誌の存在価値が失われたと思われますが、むしろ、情報過多の現代において、雑誌は単なる情報源ではなく、個人の価値観や好奇心を深めるための特別な存在へと進化しているのではないのかと。
ユーザーの情報収集は、時間軸と空間軸によって多様化しています。自宅でじっくりと雑誌をめくりたい時(時間と空間に余裕がある)もあれば、移動中にスマートフォンで最新情報をサッと確認したい時(時間や空間に制約がある)もあるでしょう。
このような背景の中で、各雑誌が目指しているのは、「紙媒体」という長年培ってきた強固なブランド力を維持しつつ、デジタルの特性を最大限に活かして行くことです。単に記事をデジタルに移行するのではなく、ユーザーがどの時間、どの空間にいても、その時に最適なUX(ユーザー体験)を設計、デザインすることが、今後のメディア戦略の鍵になります。
今回は、異なるジャンルの3つの雑誌『POPEYE』『装苑』『WIRED JAPAN』のWebサイトを比較し、それぞれのブランドがどのようにUXをデザインし、リアル(紙)とデジタルをシームレスにつなげているのかを探っていきたいと思います。
日常に寄り添う、パーソナルな体験
出典:POPEYE Web | ポパイウェブ
https://www.ihi.co.jp/recruit/career/aerospace/special-contents/curious/
『POPEYE』(創刊1976年)は、「都市とライフスタイル」をテーマに、洗練された「シティボーイ」の生き方を提案する雑誌です『POPEYE』の持つ完成された世界観を、じっくりと楽しむことができます。
一方、ウェブサイト『POPEYE Web』では、雑誌の最新号情報はもちろん、日々の「気になること」を毎日更新するコンテンツが特徴的です。ポッドキャストや、ライフスタイルに寄り添った記事(例:「初めてバーに行くなら…」)を提供することで、読者の日々の生活に寄り添い、雑誌の世界観を日常の延長線上として体験させてくれるウェブサイトです。雑誌『POPEYE』が提示する憧れの世界を、デジタルを通じてより身近で、パーソナルなものに落とし込んでいると言えるでしょう。
感性を刺激する、クリエイティブな空間の体験
出典:装苑ONLINE https://soen.tokyo/
雑誌『装苑』(1936年創刊)は、ファッションとカルチャーを横断し、アート性の高いビジュアルで読者の感性を刺激する雑誌です。ファッション業界の最前線や若手クリエイターに焦点を当て、創造性を触発する媒体です。
Webサイト『装苑ONLINE』では、雑誌の内容を補完する形で、ウェブ独自のオリジナルコンテンツを豊富に掲載しています。パリからの現地レポートや、スナップ、コンテスト情報など、紙面では伝えきれない「リアルタイム性」や「広がり」をデジタルで表現していると考えられます。これにより、読者は雑誌で得たインスピレーションを、ウェブサイトを通じてさらに深掘りし、クリエイティブな活動へとつなげる動機を得られるのではないでしょうか。
知的好奇心を拡張する、インタラクティブな体験
出典:WIRED.jp https://wired.jp/
雑誌『WIRED JAPAN』(1993年創刊)は、テクノロジー、デザイン、サイエンスを深く掘り下げ、未来への洞察を提供するワールドワイドな雑誌です。重厚な記事と洗練されたデザインで、読者の知的好奇心を満たしてくれます。
Webサイト『WIRED.jp』では、記事の要約や関連動画、パーソナライズされた推薦機能など、読者がWeb上で効率的に情報を得て、さらに興味を広げられるような設計がなされているようです。誌面で提示する「一つの大きなテーマ」から、デジタルの特性を活かした「多角的な探求」へとユーザーエクスペリエンスを拡張しているといった設計になっているようです。雑誌で得た知識を起点に、デジタルでインタラクティブな情報探索へと誘ってくれます。
まとめ
3つの雑誌に共通しているのは、UXでリアルとデジタルをつなぐ共通点があることです。単に紙の記事をデジタルに置き換えるのではなく、ユーザーの「時間軸」や「空間軸」まで計算に入れた上で、「紙媒体が提供する体験を、デジタルの特性(即時性、双方向性、パーソナライズ)で拡張する」というUX設計ではないでしょうか。
POPEYE Web:憧れの世界観を日々の生活に落とし込むUX
装苑ONLINE:感性を刺激する世界を、リアルタイムの情報で深掘りするUX
WIRED.jp:知的好奇心を、インタラクティブな情報探索で拡張するUX
それぞれのWebサイトは、紙媒体という「ハブ」から出発し、読者の行動や興味に合わせた異なる「体験」を提供することで、ブランドとしての価値を高め、リアルとデジタルの両方でファンを増やしていると言えるでしょう。