近年、ウェブデザインの現場でレトロ感やアナログ的なグラフィック表現が再び注目されています。
その背景として、洗練されたミニマルデザインや、ハイスピードで変化するデジタル社会の中で、ユーザーは「安心感」や「懐かしさ」「人間味」を求めるようになってきました。
とくにZ世代やミレニアル世代の間では、90年代、2000年代初頭のデザイン(Y2Kトレンド)が新鮮に映り、SNSを通じて世界的に再評価される流れが加速しています。
一方、長期的なデジタル接触時間の増加によって、「デジタル疲れ」を感じているユーザーも増え、あえてアナログ的な表現を用いることで、心地よい体験へとつながることもあります。
レトロ・アナログ表現が求められる理由
ユースケース01:特定のターゲット層への訴求とエンゲージメント向上
IHIの採用スペシャルコンテンツ「CurioUs」は、堅い印象の航空・宇宙・防衛事業において、レトロSF的なポップさと親しみやすさを意図的に取り入れています。これは、特定のターゲット層(特に若年層)への訴求とエンゲージメント向上を目指した、課題解決のためのデザイン選択です。
一般的な企業サイトが堅苦しく見えがちな中、「CurioUs」は短編ドラマ形式で「好奇心」を描き、若者が親しむ動画コンテンツのトーンで展開。どこか懐かしいカラフルな配色やポップなアイコンとタイトルロゴは、企業の「好奇心」や「創造性」といった抽象的な価値を情緒的に表現し、IHIの新しい顔を見せています。
出典: IHIスペシャルコンテンツ「 CurioUs」
https://www.ihi.co.jp/recruit/career/aerospace/special-contents/curious/
ユースケース02:地域の「らしさ」が伝わるブランド体験
弘前グランドパレスのWebサイトは、地域の「らしさ」を伝え、新たな魅力を発見・発信するブランド体験創出のため、洗練された、時を超えた美意識を戦略的に活用しています。
派手な流行を追わず、クラシックな色彩とレイアウトで構成。上質な写真と空間表現が、デジタルながら温かみと普遍的な価値を伝えます。これは、弘前が現代的でありつつ、豊かな歴史や文化を大切にする街であることをデザインで示しています。
単なる宿泊施設ではなく、地域に根差した「おもてなし」を提供するホテルとして差別化。本物志向で地域とのつながりを求める顧客に、弘前の多面的な魅力を深く響かせ、新たな発見を促すブランディングです。
出典: グランパレス弘前 https://grandpalace-hirosaki.jp/
ユースケース03:ブランドイメージの確立と世代を超えた訴求
「新・北九州市」のWebサイトは、ニューレトロな表現を用いて、都市のブランドイメージ確立と多様な世代への訴求という課題解決に取り組んでいます。
一般的な自治体サイトの硬い印象を払拭するため、手書き風の温かいイラストやアニメーション、柔らかな色彩を多用。デジタルでありながら、アナログ的な親しみやすさと人間味を強く打ち出しています。
これは、工業都市としてのイメージが強い北九州市に、「新しい魅力」や「住む人の温かさ」といった情緒的な側面を加えるもの。Y2Kの若年層から、アナログの温かさを知る様々な世代まで、幅広い層に「住んでみたい」と感じさせることで、都市の「個性」と「魅力」を伝え、地域ブランディングを強化しています。
出典: ニュー北九州シティ https://new-kitakyushu-city.com/
ユースケース:好奇心と探索意欲の刺激
立命館大学のRARAサイトは、研究アーカイブという特性に対し、好奇心と探索意欲の刺激というユースケースでニューレトロな表現を効果的に活用しています。
硬質で専門的になりがちな研究情報を、大胆なタイポグラフィ、構造的なレイアウト、そして未来感と懐かしさが融合した視覚デザインで提示。これは、ユーザーに「これは一体何だろう?」「もっと深く見てみたい」という知的探求心を呼び起こします。
単に情報を羅列するのではなく、サイト全体がアート作品のような独特の世界観を持つことで、ユーザーは受動的に読むだけでなく、能動的に研究の世界を「探索」する体験を得られます。これにより、学生や研究者はもちろん、一般の知的好奇心を持つ層も、堅苦しさを感じることなく、大学の革新的な研究活動へと引き込まれていくでしょう。
出典: 立命館大学「RARA」 https://rara.ritsumei.ac.jp/